このページの要点
- 診断・治療方針や服薬の指示・心理療法・効果の約束を「行わない事項」として列挙する。
- お金の講座では、個別の銘柄の売買・時期・配分の推奨をしないこと、資格が必要な業務を行わないことを定める。
- 日程変更・遅刻・無断欠席・通信の途切れの扱いと、「実施済みの回」の定義をそろえる。
- 提供者が続けられなくなったときは、振替・延長を原則に、実施済みの回の対価を差し引いて返金する。
結論:コーチングの契約は「何をしないか」を書くところから始める
コーチング、カウンセリング、個別コンサルのように、1対1のセッションを数回から数十回続けるサービスは、オンライン講座の中でも契約の作り方に独特の難しさがあります。提供するものが形に残りにくく、受講者の心身の状態や家計、家族の事情に深く触れ、成果は受講者自身の行動にも左右されるからです。アトラス行政書士法人が作成・点検したコーチングの規約では、まず「このサービスは何をしないのか」を条文で積極的に定め、そのうえでセッションの運営、回数の数え方、提供できなくなったときの扱いを決める、という順番で組み立てています。
売り方の面では、コーチングは特定商取引法の特定継続的役務の7業種には入らない一方で、無料の初回セッションやZoomの個別相談から有料の継続コースを案内する流れが多く、電話勧誘販売に当たり得ます。個別コーチングの依頼者から預かったたたき台は、特定継続的役務を前提にした概要書面を作り込みながら、電話勧誘販売の書面がない構成でした。売り方の整理はZoom個別相談・無料セミナーと電話勧誘販売で、返金の設計は返金規定・中途解約の精算で説明しています。このページでは、コーチング型のサービスに固有の条項を扱います。
医療・心理療法との線引き
内面に向き合う個別コーチングの案件では、ヒヤリングシートの冒頭に、依頼者から特に希望がなければ採用する方針として、医療ではないこと、受診を優先すべきときは中断・延期し、希望があれば解約と未実施分の返金ができること、健康情報は事前の同意で取得すること、事業者側の事情で実施できないときは振替か返金を受講者が選べること、を示しました。健康情報を尋ねる場面、通院中・服薬中の人を受けるか、受診を勧めて中断する場面、緊急連絡先を尋ねるか、を一つずつ問いにしています。
事務所の改訂例 医療との線引きの条を組み替えた例(個別コーチングのたたき台から)
受診中の受講者
受講者の義務の形では、守られたか確かめられず、違反したときの効果も分かりません。
受診を勧める場面
勧めた後の手順がないと、中断した受講者との精算で争いになります。
心身の状態に関する責任
事業者の助言で悪化した場合まで軽過失なら免責、と読める文言は無効となり得ます。
最終の規約では、「行わない事項」として、診断、治療方針や服薬の指示、心理療法、効果の約束の四つを号で列挙しました。公認心理師でない者は名称に「心理師」の文字を使えないため(公認心理師法44条2項)、その名称を使わない旨も書いています。さらに、事業者には危機に介入する体制がないことを明記し、緊急連絡先の届出は任意で、届け出なくても不利益に扱わないとしました。生命・身体への危険が差し迫り、本人の同意を得るのが難しいときは、関係機関に情報を提供し、事後に本人に知らせます(個人情報保護法27条1項2号)。無料セッションの段階で医療を優先すべきと判断したときは、契約書を送らない、という入口の手当ても置いています。
離婚後の再出発を支援するコーチングの依頼者原案のレビューでは、「カウンセリング」を前面に出しながら、医療ではないことを免責の条だけで述べる構成では足りず、何を行い何を行わないかをサービス内容の条で定義すべきだと指摘しました。「速やかに専門家を案内するものとする」という書き方は、状態を見極めて紹介する義務を負う形に読めるため、「推奨できる」「特定の専門家を紹介する義務は負わない」に改めるよう求めています。希死念慮や自傷他害のおそれがある場合の申込みの拒絶・中断・終了の根拠、緊急通報や24時間の見守りのサービスではないこと、メッセージを即時に確認する義務がないことも明記するよう求めました。元配偶者への接触や監視、違法な情報収集への協力を求めることは禁止事項に加え、離婚・親権・養育費などの個別の法的判断は行わない旨も書いています。心理系の自己理解コーチングの契約書でも、医療行為や心理療法ではないこと、希死念慮などがあれば専門の機関を勧め、提供を中止できることを定めた例があります。
婚活カウンセリングの規約では、心身の健康相談は受けない設計にしたうえで、守秘の例外(法令による場合、公的機関の求め、生命・身体・財産への重大な危害のおそれがあって同意を得るのが難しい場合、委託先、事業者の権利の防御)を置き、「これは開示できる場合を定めたもので、心身の状態を観察して危険の有無を判断する義務を負うものではない」と明記しました。例外を書くことが、見守りの義務を引き受けたように読まれないための一文です。
資格者が講師のとき・お金を扱う講座のとき
看護職の資格を持つ講師が美容の講座を開く案件では、医師法や保健師助産師看護師法との関係から、規約、特商法表記、販売ページ、プライバシーポリシーの4か所に「施術や診断はしない」旨を書き分け、契約書には医療行為を行わないことの確認欄を設けました。上位プランで受講者が使うスキンケア用品を照合するサービスは、「成分表示との突き合わせに限り、医学的な判断はせず、疑問があれば医師・薬剤師に相談してもらう」と範囲を限定しています。資格を持っていることが受講者の期待を高める分、資格の範囲で何をしないかを先に書いておく必要があります。
お金の講座では、金融商品取引法の登録が必要な投資助言の業務に踏み込まないことが中心の論点です。マネー講座のレビューでは、原案の「一切の責任を負わない」という項は消費者契約法により無効になり、投資助言に当たるかは実態で決まるので断定的に否定する書き方はむしろ不実告知の材料になる、と指摘しました。改訂版では、投資助言を行わないこと、個別の銘柄の売買・選択・時期・数量・配分を推奨・指示しないこと、税理士・弁護士・保険募集人などの資格が必要な業務を行わないこと、紹介手数料を受け取らないことを定めています。グループコンサルを録画してアーカイブで配信する講座では、発言の全量が記録として残ることを前提に、講師と運営スタッフの両方に適用する発言のガイドラインを作り、「必ず」「確実に」「誰でも」といった言葉を使わない、不安をあおる言い方をしない、と具体的に定めました。
投資教育の講座では、個別の売買の助言、売買のタイミングの提供、業者の推奨、口座開設への誘導、海外の無登録業者への誘導を行わない、と具体的に列挙しました。家計管理のマンツーマン講座では、「投資助言ではない」と書くだけでは足りず、個別の添削など個別性が高いと評価されれば無登録の投資助言業と見られるリスクがあるとして、一般的な情報提供に限ること、面談での添削も助言に当たらない範囲にとどめること、「おすすめ」という言葉も一般的な説明として使うこと、を条文に加えています。知的財産の取得を支援する講座では、出願書類は助言と校正にとどめて代わりに作成しない、資格者との面談は受講者が自分で手配・契約する、と線を引きました。
セッションの運営:日程・遅刻・欠席・通信の途切れ
セッション型のサービスで最も揉めるのは、予定どおりに実施できなかった回の扱いです。個別コーチングの規約では、ヒヤリングの回答をもとに、次のように決めました。
| 場面 | 定め |
|---|---|
| 次回の日程 | 各回の終了時に確定。決まらなければLINEや予約システムで調整 |
| 受講者の都合での変更 | 前日までの連絡なら回数の制限なく変更可。当日も開始から10分以内の連絡なら同じ扱い |
| 連絡のない10分超過(無断欠席) | 1回目は実施扱いにせず改めて実施。2回目以降は実施扱い。急病・事故・災害・通信障害で連絡できなかったことが客観的に認められれば除外 |
| 遅刻 | 受講者の遅刻では終了時刻を延ばさない。事業者が遅れたときは延長し、都合がつかなければ次回以降で補う |
| 通信の途切れ | 不足した時間は別日に補う。原因が受講者側にあり、事業者が相当時間の再接続の機会を提供していた場合は補わない |
| ワークシートの未提出 | 提出がなくても、その回は実施した回として扱う |
離婚後のコーチングの原案では、キャンセルの期限を「3時間前」としていたため、午前の回では深夜や早朝の連絡を受けることになると指摘し、「前日の何時まで」や「24時間前」を提案しました。期限後のキャンセルを実施扱いにしても、1回あたりの単価が定まっていなければ金銭の効果を計算できないこと、事業者側のキャンセル・遅刻・通信障害の定めがないことも指摘しています。チャットでのサポートについても、期待と実際をそろえておきます。心理系の自己理解コーチングの契約書では、LINEでの相談について即時の返信や深夜の対応の義務を負わず、既読の表示も返信の義務を意味しない、と定めていました。母親向けの自己理解の伴走のレビューでは、「いつでも相談できる」という広告の表現を契約に合わせ、「24時間投稿できる。確認は日中で、返信は48時間を目安とし、保証はしない」と書き分けています。Zoomのリンクを送った時点や対応の枠を確保した時点で「役務の提供を開始したものとみなす」と列挙する条項は、開始の時点を事業者に有利に早める形になるため、精算や返金の起点として説明できるかを確かめる必要があります。
受講の開始日を「別途案内する日」としていた個別コーチングのたたき台については、それではクーリング・オフの期間も精算の基準も契約書から計算できないとして、提供開始日を原則として契約締結日の翌日から7日以内とし、やむを得ない事由があれば30日以内に変更できる形にしました。
回数の数え方と精算
回数で提供するサービスでは、「実施済みの回」を定義語にしておくと、精算・延長・振替の条がすべて同じ物差しで動きます。個別コーチングの規約では、2回目以降の無断欠席を含み、事業者の事情で実施できなかった回は含まない、と定義しました。期間内に受けなかった回は満了で消滅しますが、やむを得ない事由を事前に申し出れば1か月以内で無償で延長し、延長と振替を含めても提供開始日から12か月を超えない、12か月以内に実施できなかった回は返金する、という上限も置いています。決済代行会社の審査が提供期間を最長12か月としていたことに合わせた設計です。
コースの中に性質の違うセッションがある場合は、1回あたりの単価を分けます。9か月のコースでは、本編のセッションと発信のサポートのセッションで単価を分け、精算は「受講料−実施済みの回の対価」とし、回数と単価の根拠は求めがあれば書面で説明する、と定めました。端数を切り捨てる関係で計算上数円が残る場面があることも説明書に書いています。離婚後のコーチングのレビューでは、単純な日割りが合うのは価値が日数に均等に対応する場合だけで、初回に分析や計画づくりの比重がある型、均等な回数の型、教材やコミュニティとの混合型で基準が変わると説明しました。家計管理サービスのように、中核の成果物を提示したかどうかで段階を設ける型もあります。
提供者が一人のとき・追加のセッション・受講資格
コーチングは提供者が一人で運営していることが多く、その人が体調を崩したり事業をやめたりしたときの扱いを決めておく必要があります。個別コーチングのたたき台にあった「提供できないときは協議のうえ個別に対応する場合がある」という条は、事業者の責任による解除について民法より受講者に不利な内容を定めない、という契約書面の基準(特定商取引法施行規則46条1項)に反し、責任の有無を事業者が決める条項にも当たると指摘しました。最終の規約では、事業者の体調不良・通信障害・外部サービスの障害は振替を原則とし、提供期間を超えるなら延長し、長期の中断などで振替が難しい場合に限りその回の対価を返金する、傷病や廃業で続けられなくなったときは通知が届いた日に契約が終わり実施済みの回の対価を差し引いて返金する、事業を引き継ぐときは通知から30日以内なら受講者が解約できる、と定めています。講師本人の指導が契約の本質になっている講座で、受講者の承諾なしに契約上の地位を移せる条項は適切でない、と指摘した例もあります。
修了した受講者から追加のセッションを受ける場合も、書き方に注意が要ります。個別コーチングの規約では、卒業者からの申込みだけを受け付け、事業者から電話やオンライン会議で勧誘しない、と明記しました。勧誘すれば新しい電話勧誘販売になり得るためです。料金は前払いで、前日までの取消しは全額返金、正当な理由のない当日の取消しと10分を超える無断不参加は実施扱い、事業者の事情で実施できないときは振替か全額返金です。依頼者の原案にあった「会員価格」という名称は、比較の対象となる一般価格を連想させるため「追加セッション料金」に改め、一般価格の併記もやめるよう求めました(景品表示法5条2号)。
受講資格は、メンタル面を扱うサービスでは慎重に決めます。個別コーチングでは、未成年者を受けると取消しのリスクに加えて健康情報の取得や保護者との関係が重なるため、コーチングは満18歳以上に限りました。事業の目的で受講する人も受け入れ、「個人としての受講/事業・仕事のための受講」の確認欄を設けたうえで、クーリング・オフは全員に同じ条件で適用し、法人や団体の名義での申込みは受けない形にしています。母親向けの自己理解の伴走では、対応しない事項(医療、希死念慮への対応、DVへの介入、意思決定の代行など)と、症状が不安定な人や自傷他害のおそれがある人は受講できないことを定めました。成年後見の開始などの属性だけで解除できる条項は消費者契約法上問題になるため、属性ではなく、安全に提供できるかという観点で設計します。
守秘・記録・相談内容の扱い
個別コーチングの規約では、守秘の例外を、法令による場合、生命・身体の危険が差し迫った場合、プライバシーポリシーに定める委託先の三つに限り、そのうえで、動画の編集・SNS運用・デザインなどの外注先には、相談の内容・ワークシート・録画を提供しない、と別に明記しました。離婚後のコーチングのレビューでは、扱う情報の多くが元配偶者・子ども・交際相手など第三者に関するものなので、守秘の対象にそれらを含めること、受講者が家族や医師に相談することまで禁じないことを求めています。家計の相談で受講者に自分でカメラの設定を変えさせる方式は、カメラをオフにすると相談しにくくなり、実質的な選択の自由にならないと指摘した例もあります。セッションの録画や、健康情報などの要配慮個人情報の扱いはコミュニティ・録画・個人情報で、免責や管轄などの一般条項は受講規約・受講契約書の条項Q&Aで説明しています。
ヒヤリングの問いと理由 コーチング型のサービスで最初に確かめること
通院中・服薬中の方や、心身の不調がある方の申込みを受けますか。
受講資格、受診を優先する場面、中断・延期・返金の手順を決めるためです。
セッションの中で、医療・心理・法律・投資・税務に関わる相談を受けることはありますか。
「行わない事項」として何を列挙するかを決めるためです。
日程の変更・遅刻・無断欠席・通信の途切れは、これまでどう扱ってきましたか。
実際の運用をそのまま条文にするためです。
提供者はお一人ですか。代わりの担当者はいますか。
提供できなくなったときの振替・延長・返金・終了の扱いが変わります。
修了した方に追加のセッションを案内する予定はありますか。
勧誘の仕方と料金の表示を決めるためです。
起きがちなこと
よくあるご質問
コーチングは特定継続的役務提供に当たりますか。
コーチングは特定継続的役務の7業種には入らず、当たりません。ただし、無料セッションやZoomの個別相談から有料のコースを案内する流れは電話勧誘販売に当たり得るので、その場合は契約書面とクーリング・オフの手当てが必要です。
医療職や資格者が講師の場合、規約に何を書くべきですか。
資格の範囲で何をしないかを先に書きます。施術や診断をしないこと、医師等の指示を優先すること、受診を優先すべきときの中断・延期・返金の手順を定め、規約・特商法表記・販売ページ・プライバシーポリシーで同じ内容にそろえます。
お金・投資の講座で、気をつけるべきことはありますか。
個別の銘柄の売買・選択・時期・数量・配分の推奨や指示をしないこと、税務・法律・保険の資格が必要な業務を行わないことを定め、講師と運営スタッフに共通の発言のガイドラインを用意します。「投資助言ではない」と書くだけでは足りず、実際の発言が問われます。
無断欠席や当日キャンセルは、実施済みとして扱ってよいですか。
扱うこと自体は可能ですが、連絡の期限、急病や通信障害で連絡できなかった場合の除外、事業者側の遅刻や障害の扱いをあわせて定め、1回あたりの単価を決めておく必要があります。1回目の無断欠席は実施扱いにしない、といった緩和を置いた例もあります。
提供者が一人で、体調を崩して続けられなくなったらどうなりますか。
振替や期間の延長を原則にし、それが難しい場合は実施済みの回の対価を差し引いて返金する、と定めておきます。「協議して個別に対応する」とだけ書く形は、受講者に不利な定めとして問題になります。事業を引き継ぐ場合は、受講者が解約できる機会も設けます。
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